日本コーチング学会第35回学会大会を朝日大学で開催!!
お知らせ |2024年03月05日
2024年3月2日(土)~3日(日)に全国から230名の会員が集まり、日本コーチング学会第35回学会大会が朝日大学にて開催されました。開会式に会長尾縣貢先生(筑波大学教授)、大会名誉会長大友克之先生(朝日大学学長)が登壇、歓迎の挨拶を述べられました。
その後、中川昭先生(京都先端科学大学/朝日大学客員教授)司会:林卓史先生(朝日大学教授)により「コーチング学と実践現場をつなげる 〜長良川における汽水域の如く〜」をテーマとして基調講演が行われました。冒頭、中川先生から応用科学である「コーチング学」は「スポーツのトレーニング(練習)と指導に関する学体系」でありながら「研究が実践現場と密接に繋がっているかは自明のことか?」についての問題提起がなされました。この問題について、中川先生は過去の学会大会テーマを引き合いに出され「コーチングと現場の乖離」は古くて新しい問題であり未だに解決をみないことを説明されました。つまり、コーチン学に携わる研究者は自らの研究で得られた研究知見を実践現場で効果的に使われるための模索や努力をすべきであることを改めて示されました。これらを踏まえ、研究知見を実践現場へ適用するためには「日本コーチング学会は何をすべきか?」について講演が進められました。
先ず研究者は実践現場に研究成果が適用されるためには、様々な観点からの考察によって研究で得られた知見を実践現場へ還元するための「示唆」を工夫することが重要であることが述べられました。また一般的な研究デザインの限界と事例研究の意義についても言及されました。競技レベルの高い個人やチームを事例として研究対象にする事例研究を用いることで、この対象の個別性や特殊性を明らかにすることができることを説明されました。例えば熟練者の様々な経験によって構築された実践知を引き出すためには、一般的な研究デザインによる研究では困難でも、事例研究なら可能であり、事例研究はコーチング学という学体系構築の促進に大きく貢献することを述べられました。
次に事例研究を実践現場に繋げる方策についても言及されました。事例研究で得られた研究知見はその研究対象(事例)と同様な実践対象だけに適用可能であるだけなく、研究者の「類推」によって認められる実践対象にも適用可能であることが説明されました。この事例研究においても、実践者が研究知見を理解し利用できるようにするために研究者によるコーチング実践の「示唆」が重要であることが述べられました。
最後に中川先生はコーチング学に携わる研究者が実践現場を持つことの重要性について言及されました。研究者と実践現場が連携を深める意義として、研究知見が実践現場で利用促進されるだけでなく、研究者が実践現場で抱える問題を共有できることにあると説明されました。本大会のテーマ「汽水域の如く」研究現場と実践現場が様々な立場と役割を越えて良い塩梅で混じり合うことの重要性について、改めて説かれ、基調講演は終了しました。


学会企画シンポジウム①では「コーチングに活⽤するリーダーシップ理論の新機軸」をテーマとして、高校野球を例に挙げながらコーチングにおけるリーダーシップ理論の重要性とその活用に関する深い洞察が共有されました。
先ずオーガナイザーの水野基樹先生(順天堂大学/順天堂大学大学院 教授)から高校野球の脱坊主という象徴的な変化を例に挙げ、伝統的な慣習に挑戦し、変化を生み出す必要性が示されました。特に社会やスポーツ界における既存の枠組みに囚われない新しい考え方へ移行し、新たなコーチング現場を実現するため、リーダーシップの「理論」と「実践」の往還が必要であると提議されました。
続いて芳地泰幸先生(日本女子体育大学/日本女子体育大学大学院准教授)から「理論」と「持論」の間のダイナミックな関係が強調されました。リーダーシップの「持論」に経営学におけるリーダーシップ「理論」を取り入れることで、両者をスパイラルアップさせるように進化させることの重要性が説明されました。またこれまでのリーダーシップ理論の歴史的な展開と最新のトレンドが共有されました。
次に庄司直人先生(朝日大学 准教授)から主体性と創造性を引き出すためのアプローチが紹介されました。リーダーシップとマネジメントの違いを整理したうえで、まずチームを繁栄チャネルへと導くリーダーシップ中心のアプローチ、次に心理的安全性を促すチーミング、そしてインテグリティを促進するリーダーシップが、主体性と創造性を引き出すための新しいリーダーシップの方向性になるとしました。
更に北岡剛氏(岐阜市立岐阜商業高等学校教諭)は主体性と創造性を高校野球の舞台で体現することを目指しリーダーシップ理論をコーチング現場に応用する具体的な試みを紹介しました。特に心理的安全性を高める取り組みやサーバントリーダーシップを取り入れた選手に尽くす実践の紹介は選手主体の野球の実現を感じさせるものであり「理論」と「実践」の有効な往還の好事例となりました。
最後に水野氏が、オーディエンスとの質疑応答の内容も踏まえて、今コーチング現場で求められるリーダーシップの形はオーセンティック・リーダーシップである可能性に言及しました。そして、本シンポジウムの結語として、リーダーシップの「理論」と「実践」の有機的な融合はスポーツの現場で変化を促進し、より効果的なコーチングを実現するための基盤を提供するとしました。


朝日大学と日本コーチング学会が共催した特別企画『私が考えるコーチング采配論』(司会:林卓史先生(朝日大学教授))では、2人のメジャーリーグ選手を高校時代に指導した佐々木洋氏(花巻東高等学校教諭/硬式野球部監督)と日本代表監督の経験をもつ後藤寿彦先生(朝日大学教授)がご登壇されました。
先ず佐々木洋氏からは、2人のメジャーリーグ選手を育成した経験を踏まえ「目標設定の重要性」やそのポイントについてお話を頂きました。また采配論では「試合では選手が臨機応変に判断することが重要」と語られました。次に後藤寿彦先生からは「選手の長所をみる(見る・観る・診る・視る・看る)、選手を好きになる」ことがコーチングのポイントであり、そのためには「選手をしっかりと見守る(待つ)必要がある」とのお話がありました。 本シンポジウムは優れた指導者のもつ「実践知」と呼ばれるリアリティのある知識とコーチング学の知見が様々な立場と役割を越えて良い塩梅で混じり合う「汽水域」という大会テーマに相応しいものとなりました。一般公開シンポジウムとして開催された本シンポジウムには日本コーチング学会会員に加え、高校野球・中学野球指導者、中学生、朝日大学体育会生、一般市民の方など約500名にご参加頂き、多くの「実践知」を共有する機会となりました。


学会発表(ポスター)では朝日大学体育会生も発表を行い、各発表に対して多くの質疑が呈され活発な議論が展開されました。
・「ストロボ眼鏡による8週間の視覚トレーニングが視機能に及ぼす影響」
福島成亜さん(健康スポーツ科学科3年/体育会卓球部所属)、青井龍生さん(健康スポーツ科学科3年/体育会卓球部所属)、菅嶋康浩先生(朝日大学教授)
・「ラグビーの攻撃時におけるフェーズ間の身体負荷特性について」
梶山俊仁先生(朝日大学教授)、伊東裕希先生(朝日大学講師)、吉川充氏(朝日大学職員/体育会ラグビー部監督)、谷川智樹さん(健康スポーツ科学科3年/体育会ラグビー部所属)ほか

初日の最後は協賛企業様もお招きして、約100名が参加する情報交換会が行われました。参加者が「長良川における汽水域の如く」様々な立場と役割を越えて良い塩梅で混じり合うことで、スポーツ科学という学際的・横断的な知を扱う学問領域がより豊かになることを考える絶好の機会となりました。

二日目の学会企画シンポジウム②では「運動部活動の地域移行に関する現状と課題」をテーマとして、スポーツ庁のガイドラインをはじめ、地域での取組状況、指導現場が抱える課題などの現状を把握するとともに、今後大学や学生が果たす役割を検討しました。座長は長登健先生(順天堂大学教授)が務め、各登壇者の皆様から以下の発表「橋田裕氏(スポーツ庁地域スポーツ課長)〈国や自治体の現在の取組み状況〉、内田匡輔氏(東海大学教授)〈運動部活動の地域移行に関する検討会議提言の概要〉、影山雅永氏 ((公財)日本サッカー協会ユース育成ダイレクター)〈日本サッカー協会の取組み〉、森嘉長氏(岐阜県羽島市教育長)〈地方自治体における部活動の地域移行の取組み〉」が行われました。これら発表の後、客席の学会員の皆様にQRコードからGoogleformの質問に回答して頂いたところ、学会員の所属先や関係機関で「地域移行の取組みを始めている」または「取組みを予定している」という回答が全体の約6割となり、地域移行の広がりを感じられました。今後、運動部活動の地域移行を円滑に進めるために「地域での受け皿となる運営団体」や「指導者の人材確保」をはじめとした各課題について、行政、スポーツ関係団体、および学校運動部活動に携わる社会人指導者が一体となり、地域の状況に応じて検討を重ねながら解決していくことが必要であり、これから先の将来においても、わが国の子どもたちがスポーツを楽しむことができる環境を保障するため、それぞれの立場で各課題に対して、積極的に関わることが大切であるとの認識を会場全体で共有しました。


閉会式において、林卓史先生(朝日大学教授)が登壇された2人のシンポジストについての研究により、日本コーチング学会から表彰を受けました。
- 令和5年度日本コーチング学会 学会賞
論文「野球における卓越した指導者の指導に関する事例研究:メジャーリーグにおいて活躍する2人の選手を育成した高校野球監督の語りを手がかりに」(林卓史・井上元輝・奈良隆章)
- 令和5年度日本コーチング学会大会 優秀発表賞(口頭発表:個別コーチング学の部)
発表「野球指導者の熟達化に関する研究:元日本代表監督を対象として」(林卓史・奈良隆章)
